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zoom RSS 識字教育と識字アニメーションの可能性についてーミナの笑顔の製作に参加して

<<   作成日時 : 2008/07/09 15:02   >>

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アニメーションは、実に大きな力を持っている。見る人の心を大きく動かす。初めて「風の谷のナウシカ」のアニメ映画を見た時の感動を忘れられない。あの作品は、環境問題の深刻さと人間の生き方について、創造的な物語で表現したもので、物語を通じてのアニメーションの新しい可能性を切り開いたものであった。昔、東映が製作したアニメに「白蛇伝」という名作があったが、日本の視覚文化の豊かな伝統と現代のアニメ技術、そして想像力のインテグレーションが実に繊細な表現を可能にしたのだ。

 こうした背景の中で、日本、マレーシア、中国、インドなどと共同でアジアの昔話や識字教育に関する新しいアニメーションの共同制作に携わったことがあったが、最近、そのアニメについて読売新聞から取材を受け、そのときの記事が掲載された。しかし重要な議論の詳細は、記されていない。そこで議論されたことは多様な文化表現と宗教、あるいは文字の読み書きのできない人々の苦しみや環境問題などこの時代に必要な深刻な課題が多数提起されたのである。そうした課題を、マレーシアから参加した漫画家のラットたちと夜を徹して議論しながら製作したのであった。声優として、アグネスチャンが、無償のボランティアで参加してくれたのは嬉しかった。

「ミナの笑顔」の物語の筋は、マレーシアの農村をよく知っている漫画家のラットに依頼した。しかし彼から送られてきたその物語を読んでみて驚いた。そこにはラットのマレーシアでの子ども時代の農村生活が描かれているだけで、識字の問題は全く描かれていない。つまり漫画ですべてを表現できる力をもっているラットには、文字が読み書きできない苦しみは理解できなかったのかもしれない。

「これでは識字教育では使えない」と思ったので、そこで私は、ラットが来日したとき、物語の素案をもってラットと話しあった。私は、これまで識字の事業をアジア地域でやってきた経験から「識字について」の物語は私の手で創作することにした。主人公は若い女性とした。そして物語に読み書き計算のハプニングを通して、自立に目覚めていく物語だが、そこにはさまざまな人物を描くことにした。ミナの亭主の支援や薬局での薬品を買うときの計算能力、マーケットで中間搾取をする男などをおもしろく描いたが、最も細心に気を配ったのは、非識字者に対する深い配慮が必要だったということだった。

それをラットに示すと彼はすぐに大賛成。そこでこの素案をインドへ行ったとき、編集者のバーシャ・ダス氏に見せて物語にインドからの視点も交えて最終的に構成することにした。アニメーションは、ややもすればアジア地域では、娯楽としてだけ受け止められている。ーしかしミナの笑顔では、バスの中で文字の読めないミナをみて乗客が笑うという場面が出てくるが、彼女を見てみんなで笑ってしまうことは、大変大きなショックを非識字者のミナに与えてしまうということである。

私は大阪の識字運動の中で製作された映画を見て、文字の読み書きのできない人の心理をどのように描いたらいいのか試行錯誤していた。非識字者の苦しみや悩みを実感できなくては意味がないし、どのようにアジアの人々と共感や連帯が広がっていくか。私が感銘を受けたのは「雨の指もじ」 という映画で、部落差別のため、文字を失った苦しみを通して、文字を学び新しい生き方を発見していく姿を描いたもので実に感動的なものであった。

識字アニメの製作の上では多くのことを議論した。実に重要なことが話された。これからその内容を詳しく書きたいと思っているが。これは現在、私が働いているICLC国際識字文化センター(ICLC)で、新しく企画している識字アニメーションを始めるための参考として読んでいただければいいのではないかと思っている。(たじましんじ)





読売新聞 2008年4月4日
TOKYOあにめのま〜ち 一覧

S途上国の識字率向上に協力
 「発展途上国のために、力を貸して下さい」。1991年夏、杉並アニメーションミュージアム館長、鈴木伸一さ(74)はこんな依頼を受けた。ユネスコ・アジア文化センターが企画したアニメ『アジアの昔話』の打ち合わせをする会合でのこと。声の主は同センターに勤めていた田島伸二さん。このアニメは、発展途上国のアニメーター養成を狙って作られたが、田島さんの次の目標はもっと踏み込んだものだった。「世界に8億人いる読み書きできない人のために、啓発アニメが作れないでしょうか」と鈴木さんの手を握りしめた。
「ぼくで良かったら」。鈴木さんはその場で快諾した。大ヒットした『笑ゥせぇるすまん』の監修で、仕事は分刻みのスケジュールだったが、ためらいはない。子供たちが教室で本を開き、元気に声を出す光景が頭に浮かんだ。
原案は田島さんが作った。東南アジアの農村が舞台。農作業中に胸を押さえて倒れた夫を救おうと、妻ミナは薬を探す。しかし、ビンのラベルの字が読めないために危うく殺虫剤を飲ませそうになる。バスにも乗れなかったりと、読み書きできないゆえの困難に直面して、ミナは字を勉強し始める。タイトルは『ミナの笑顔』。キャラクターのデザインは、マレーシアの国民的な漫画家で、東南アジアの手塚治虫と呼ばれるラットさんが担当することに。その絵を動かすのが鈴木さんの役目だ。声はアグネス・チャンさん。アジアをまたにかけたプロジェクトは動き出す。
 ところが、スタッフの前にはすぐに、思わぬ困難が立ちふさがることに……。

異なる宗教服装めぐり激論

「わが国では女性がへジャブをかぶるのは当たり前です」。マレーシアの人気漫画家、ラットさんは腕組みしながら表情を曇らせる。1992年、識字啓発アニメ『ミナの笑顔』の制作会議。ユネスコ・アジア文化センターの一室を重苦しい空気が包んだ。へジャブとは、イスラム教徒の女性が頭にかぶるスカーフのこと。ラットさんは主人公の女性にこれをかぶせると譲らない。大まかに描いた絵コンテ約60枚には、すでにへジャブが書き連ねてあった。
「多くの国の人にみてもらうためのアニメです。宗教色を出しては受け入れられません」。田島伸二さん(元同センター職員)が色をなして迫る。それでも首を横に振るだけのラットさん。「まあまあ、お二人とも……」。監督の鈴木伸一さん(74)(現・杉並アニメーションミュージアム館長)は、なだめるのが精いっぱいだった。宗教だけでなく、服装、食べ物、町並み……ありとあらゆる文化が異なるのがアジア。鈴木さんは、どの地域にも等しく受け入れられるドラマを作ることの難しさを痛感する。
「わかった。みんなが字を読めるようになるためなら」。ラットさんが「うん」と言ったのは、2日後。ぽりぽりと頭をかきながら、田島さんに握手を求めた。ミナの服装は首にリボンをまくという案で落ち着いた。この奇抜なファッションに決まったのは、どの国の宗教にもないいでたちだったから。この後、ミナがリボンを付けた絵が回覧され、すべての国のユネスコ関係者がOKを出す。セーラー服のような着こなしには、深遠な訳が潜んでいたのだった。

■ラットさん■ 1951年生まれ。本名モハマッド・ノール・カリッド。東南アジアを代表する漫画家。30年以上、マレーシアの大手英字紙で一コマの時事風刺漫画を連載。代表作は自らの少年時代を描いた『カンポンのガキ大将』(晶文社)。

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